ヨーロッパの将来エネルギー政策(続)

ヨーロッパの将来エネルギー政策(続)         June 03 [Fri], 2011, 17:11

 

 「地中海横断送電プロジェクト」の紹介の続き。

 図1は、ヨーロッパ各地域に適する自然(再生可能)エネルギーの分布を示している。数字は、TWh/年で表した発電能力である。

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図1 自然エネルギーの発電能力分布。数字の単位はTWh/年。(色と発電能力値の対応については、元報告を参照されたし。)

 このように、地域によって適する自然エネルギーは異なる。例えば、バイオマスは温かい土地が向いており、地熱は火山があるところ、風力は北海沿岸、水力は山地、そして太陽は北アフリカを含む地中海沿岸となる。

 次に、自然エネルギーのコストが妥当であるという説明がある。当然ながら、現実的な政策には、これは必須である。

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図2 各種エネルギー源の発電コスト比較。

 石油と天然ガスの価格が次第に上がり、中期的には、再生可能エネルギーのコストが、他よりも小さくなると予想している。サハラ砂漠での太陽熱発電は、2020年から始まり、5セント/kWh程度で安価となっている。


 サハラ砂漠で太陽熱発電ができることは良いとして、はたして地中海を横断して送電線で運ぶのが妥当かどうかについては疑問もある。そこで、水素に変換して運ぶ場合と比較している。

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図3 サハラ砂漠での太陽熱発電の電力を、送電線を使って電気で運ぶ場合と、水素に変換して輸送する場合の比較。

 水素で運ぶときは、サハラ砂漠で発電した電気を使って水の電気分解を行い、できた水素をタンクに詰めて運ぶ。その水素を使うときは、燃料電池で電気に変える。さらに必要に応じて直流交流変換を行って消費者に届ける。

 図3の見積もりによれば、水素を使うのはかなり不利だと言うことになる。それは何段階ものステップを踏むので、その度に損失が出るからだ。

 これに対して、送電線を使うと、90%くらいの効率で運べると結論している。特に、直流800 kVという高電圧直流を使うのが良いという。海底電線の場合、交流を使うと充電電流が流れて損失が大きくなってしまう。

 また、800 kVと1150 kVを比較して、短距離では1150 kVが良いが、長距離では800 kVが有利、という見積もりもされている。海底電線でこんな高電圧を送れるのかとも思うが、既に実績があり技術的な問題はないそうだ。実際、日本でも北海道と本州の間などに電力用の海底ケーブルが敷設されている。

 このような検討をした上で、再生可能エネルギー化石燃料の組み合わせで電力のベストミックスを得ようというわけだ。その様子を表したのが図4である。図中、白い枠は、必要とされるピーク電力を表している。

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図4 2050年までのヨーロッパの電力構成予測。一番下の紫色が原子力。2040年でほぼゼロ。 

 目立つのは、エネルギー源の多様性が増していくということと、風力の重要性が増していくこと、そして原子力が2040年あたりでゼロになることだ。石炭の比率は2030年くらいまでは、あまり変わらない。天然ガスの比率は、現在よりも、むしろ増す。

 そこで疑問が生じる。原子力維持政策を採るフランスはどうなるのか。2050年にも原子力を使うのか、それとも他のエネルギーに向かうのか。その解答が次の図である。

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図5 2050年までのフランスの電力構成予測。一番下の紫色が原子力で、2050年にはゼロになる。

 驚くべきことに、この報告書の結論の中ではフランスも例外ではない。原子力も2050年までにゼロにする。出力一定のベース電源である原子力は、再生可能エネルギーの変動に対応できない、いわば古い電力システムである。また、放射性廃棄物の問題や廃炉の問題、そして事故の可能性等、解決できない問題を抱えている。そのような電力源を維持する理由はないというのが、この報告の主張だ。

 このような現実的な解答は、日本の将来の電力体制を考える上で大変参考になるのではないだろうか。ベストミックスを実現するのに、化石燃料(石炭・天然ガス)による火力発電をうまく使っているのが印象的だ。

 CO2による温暖化に対する予防原則を強調してきたヨーロッパにして、このようなシナリオを立てる。ここに彼らの思考の柔軟性を見る。というより、使い分けがうまいと見るべきか。西洋のメンタリティでは分離・融合が得意である、ということと関係あるのだろう。

 もちろん、日本には日本に適した方法があると思うし、送電網が発達したヨーロッパと直接比較することはできないだろう。しかし日本でも、このような現実的なシナリオに基づく中期展望が是非提案されていくべきだ。