原発安全文化指標について

原発安全文化指標について  June 06 [Mon], 2011, 23:00

 

 原発の人的要因・組織要因についての安全文化指標というものが、つい最近まで日本にはなかったという話。

 独立行政法人原子力安全基盤機構が平成22年10月に報告した、平成21年度「人間・組織等安全解析調査等に関する報告書」に次のように書いてある。
  
 「経済協力開発機構原子力機関OECD/NEAの原子力施設安全委員会/原子力規制活動委員かCSNI/CNRAに参加している15ヶ国のうち、日本とドイツ以外の13カ国では、人的要因・組織要因に係る安全文化指標SCI(Safety Culture Indicator)も含む安全性能指標SPI(Safety Performance Indicator)を報告している。」

 原発事故では、人的要因・組織要因の寄与が大きいにも関わらず、日本とドイツには、それに対する「安全文化指標」なるものがなかった。

 そこで、「海外原子力規制機関15ヶ国(ベルギー、カナダ、スイス、チェコ、ドイツ、スペイン、フィンランド、英国、ハンガリー、日本、韓国、スウェーデンスロバキアスロベニア、米国)が公表している人的要因・組織要因に係る安全文化指標も含む約140個の安全性指標について調査、個々の指標についての各国での定義、目的、評価手法(閾値、トレンド)、データの収集方法、評価周期等について整理した。」そして、「安全文化の14要素からの指標の選定方法等の基本要件を整理した。」

 件の安全文化14要素と、その劣化の兆候を評価する視点のリストを下に示した。


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1. トップマネジメントのコミットメント
 ①トップマネジメントが安全を最優先するという明確なメッセージを組織の末端まで浸透させている。
 ②安全確保の目標と利益追求などの目標の間に相克を感じることなく活動できる方針を示し、それを実行している。

2. 上級管理者の明確な方針と実行
 ①安全確保活動に関する方針を示し、それを実行している。
 ②安全を最優先した資源計画(予算計画、人員計画、設備投入計画、保守・保全計画)が立案され、その実効(含む安全 性、重要性、緊急度等に対応した優先順位と計画のずれに対する修正)が行われている。
 ③組織全体(本社、発電所)の保安活動を担う体制及び部署間の役割・責任・権限を定め、それを機能させている。

3. 誤った意志決定を避ける方策
 ①安全に関わる誤った意志決定や組織の閉鎖性(集団浅慮等)を排除するための具体的に方策が確立され機能してい
る。
 ②保安活動における意志決定にあたっては、品質マネジメントシステムにより定められた意志決定システムに従っている。

4. 常に問いかける姿勢
 安全に関わる自らの行動や機器の状況、さらには組織のあり方などについて常に問いかる姿勢が組織構成員に定着化している。

5. 報告する文化
 個人的なエラーやヒヤリハット事例、組織にとって望ましくないと思われる情報等を懸念なく報告できる雰囲気が職場に醸成されている。上級管理者が率先してその模範的な役割を果たしている。

6. 良好なコミュニケーション
 ①社内コミュニケーション(上下間、組織横断)が有効に機能している。
 ②協力会社との対話や要求事項の伝達が適切に行われ、伝達したことが浸透している。また相互理解を促進するコミュニケーションの場づくりに努めている。

7. 説明責任・透明性
 説明を要する事態が発生した場合は、地元住民や国民、規制当局にタイムリーで透明性の高い情報提供を行っている。また相互理解を促進するコミュニケーションの場づくりに努めている。

8. コンプライアンス
 ①ルールが適切でかつ有効であることを確実にするためのルールの維持管理(タイムリーな見直し、改訂、新規作成等含む)がなされている。
 ②コンプライアンスが日常業務に定着している。
 (注)コンプライアンス: 組織の目的を実現するために、法令・規制要求事項を遵守するとともに、その背後にある社会的要請に応え原子力安全を達成するための社会的ルール(原子力安全に関する標準、基準、手順書等)を遵守すること。
 ③コンプラアンスに問題を感じた時は、それについて提言できる制度や雰囲気が醸成されている。

9. 学習する組織
 ①教育・訓練、力量評価、選抜・資格等により経営者、管理者を含む組織各層の構成員の育成と動機付けを図り、組織の技術力を維持・向上させている。
 ②保安活動に関連する知見・情報・データを蓄積し、関係部署へ伝達している。
 ③自社及び国内外の重要な事故・故障から得られた知見を蓄積し、学習し、改善活動に反映させている。
 ④ヒューマンエラーやヒヤリハット分析から得られた知見を蓄積し、学習し、改善活動に反映させている。

10. 事故・故障等の未然防止に取り組む組織
 事故・故障等を未然に防止するため、事故・故障等の根本原因分析、不適合管理、是正処置・予防処置等から得られた知見が組織に伝達されている。

11. 自己評価又は第三者評価
 ①安全文化情勢活動の形骸化防止を図るため、自己評価又は第三者評価を行っている。
 ②安全文化醸成の達成度及び安全文化劣化兆候を把握するための指標を定め、自己評価を行っている。

12. 作業管理
 無理のない行程計画や現場の作業実施、作業環境の改善を行っている。

13. 変更管理
 ①組織(協力会社を含む)の変更時に、リスクや安全性への影響等の適切な評価と変更管理を行っている。
 ②ルールや手順等の変更時に、安全性への影響等を適切に評価し、変更後の管理を行っている。

14. 態度や意欲
 ①従業員の日常業務の意欲や姿勢の向上、モチベーション高揚、労務の適正化等に取り組んでいる。
 ②管理者のリーダーシップ、管理の意欲や姿勢の向上等に取り組んでいる。
 ③良好な職場風土の醸成に取り組んでいる。
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 このような指標は、普通の会社なら当然だろう。しかし、日本の原発業界では「理想」以上のものではないとしか言いようががない。このような立派な安全文化指標が日本で活用されていたら、今回の事故もここまで拡大しなかっただろうし、あるいはそもそも事故が起きなかった可能性もある。

 もし「誤った」意志決定」を避けられたら、もし「常に問いかける姿勢」があったら、もし「報告する文化」があったら、もし「学習する組織」だったら、またもし「第三者」による客観的評価がなされていたら、もし「事故・故障を未然に防ぐ組織」だったら、そしてもし「コンプライアンス」が定着していれば、等々、そうすれば事故は起きなかったのではないか。

 やはり、日本には原発を使う資格はなかった、と思わざるを得ない。