英国の放射性廃棄物処理

英国の放射性廃棄物処理      May 13 [Fri], 2011, 0:40

 

大分前に買った、原子力の技術シリーズ3と4、『燃料サイクル上・下』(W.マーシャル編、内藤奎爾監訳、筑摩書房)を読み直している。これは1983に英国で出版され、1987年に和訳されたものだが、和訳で膨らんだものと見え、各巻600ページもある。

 購入当時は一般常識として読み、そんなものかという感じだったが、今読み直すと原発事故や六ヶ所村の施設のことがあるので、まさに他人ごとではない。また彼我の違いが明確で、客観的・合理的な「西洋的感性」の良い面を見ることができる一方で、制御に対する自信過剰の悪い面も見える。しかし、日本の現状と照らすことで、参考になることは間違いないと思う。

 そこで以下に、関係箇所を抜粋して紹介したい。

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2 放射性廃棄物管理の目的と原則
 放射性廃棄物管理の目的についての国際的な合意は次の通り。

 (a) 現在および将来にわたって放射線防護の原則に従わなければならない
 (b) 将来の世代に対するいかなる影響も、最大限実現できる限り小さくする必要がある
 (c) 自然環境の性質を決して損なうことがあってはならない
 (d) 現在および将来にわたる天然資源の開発権を損なうことを避けなければならない

 放射線廃棄物管理に関するイギリスの政策は、「放射性廃棄物の管理(勅令書884)」の勧告による「放射性条例(1960年)」に基づき、原子力関連産業は次の3点を要求される

 (1) まず第一に、一般人が原子力関連産業から受ける被曝量は、国際放射線防護委員会(ICRP: International Commision on Radiological Protection)の職業人に対す勧告値、すなわち、全身被曝量で年当たり最大0.5 rem (5 mSv)の1/10以下(注: つまり0.5 mSv以下)であることを、それにかかる費用を度外視してでも保証すること
 (2) さらに、30年間の集団線量として1人当たりの平均値が1 remを決して越えることがないように、それにかかる費用を無視して保証すること
 (3) その上で、被曝線量低減化にかかる費用、原子力の利便性、原子力開発の国家的重要性の鑑みつつ、合理的に実行可能な限り、これらの被曝線量レベルをさらに低減化すること

 1977年にICRPは被曝線量限度に関する勧告を改訂し、これに伴って勅令書が884が再審議された。再審委員会は改訂されたICRP勧告を受けて、イギリスでの原子力関連事業者が遵守すべき基本的な目標を次のように定めた。

 (a) 放射性廃棄物を発生させる全ての事業は、それが必ず差引して正の便益をもたらすものであるとしてその必要性が正当化されていなければならない。
 (b) 放射性廃棄物に起因する一般人の個人被曝線量および集団線量が経済的および社会的要因を考慮に入れて、合理的に実行可能な限り低く抑えられなければならない。
 (c) 現状で、全発生源のうち、自然放射線と医療目的に起因するものを除外したものから決定グループ(注: 最も被曝可能性の高い集団のこと)を代表する人が受ける平均有効線量当量(すなわち、身体の各器官ごとに異なる放射線に対する感受性を考慮に入れた放射線のリスクの尺度)が年間0.5 rem (5 mSv)を越えてはならない。
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 この本では、以上のような原則を基に、「(著者たちが、)廃棄物中に含まれる放射線各種が崩壊して安全なレベルになるまで廃棄物を安全に人間環境から隔離しておく方法を最終的には見出す確信のあることを読み取っていただけると思う。」と記している。

 そう豪語するからには、技術的な検討も具体的になっていなくてはならない。そうでなければ、ただの虚言に留まる。そこで、例として「地層処分」の項を見てみよう。

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 地層処分は、原則的に現実的、安全、長期管理向きの廃棄物処分法であると、国際的に認められている。その背景には、イギリスの国土を含めて世界中の地表のほとんどが極めて長い期間、すなわち何億年もの間にわたって安定であったという考えがある。

 処分用サイトを作る地層の満たすべき基準は次のような項目である。

 (1) 岩盤の厚さと大きさが処分場を形成するのに十分であり、地表面からの隔離が十分な深さにあること
 (2) 地下水の水理学的条件が単純でよくわかっていて透水性が小さいこと
 (3) 地質学的に長い安定な歴史を持ち、活断層がなく地震が頻発しないこと
 (4) 適当な熱伝導率を持つこと
 (5) 化学的条件が適切であること。すなわち、、高いイオン収着容量あるいはイオン交換能を持ち、熱的に安定であること
 (6) 人間の侵入を誘うような資源の埋蔵の可能性がないこと
 (7) かつて資源開発が行われたことがないこと
 (8) 処分場の掘削、建設、操業に必要な期間中、これらに対する適性を持ち、引き続いて埋め戻しと密閉化が適切に行えること
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 英国では、このような条件を満たす土地、すなわち岩塩層、粘土質堆積層、硬質岩層の面積が、国土の16%に及ぶという。実際に必要な面積は0.1 km^2であると見積もられ、適切な土地を探すのは難しくない、と結論されている。

 こうして見ると、著者たちが「心配いらない」と豪語しているのもうなづけるような気がする。もっとも、今でもまだこのような地層処分は行われてはいないが。

 これに対して、日本の廃棄物、特に高レベル放射性廃棄物の処理を取り巻く環境は、お寒いと言うほかない。「何億年も安定だった」土地、地震が頻発しない土地、がどこにあるのか。そもそも、「イギリスを含めて世界のほとんどの地表が・・」という記述に関して、日本は例外である。それは、地震頻度を表す地図を見れば残念ながら明らかだ。

 さらに、放射線被曝を低減させるために「費用を度外視した」取り組みを要求するなど、日本から見ると羨ましい厳しい態度を見せている。これは、原子力産業に対して政府が規制を行える制度を持っていることを意味している。それは、次のような許認可に関する体制にも反映している。

 「原子力産業の成長に伴い、イギリスでは上述の目標を満たすべく、全ての原子力施設の設置と運転に関し、許認可および監督を行う体制が整備され、政府の各省庁または機関によって実施されてきた。原子力発電所や再処理プラントのような民間原子力施設を例にすれば、これらは廃棄物処理施設や貯蔵施設を含めて原子力施設検査局によって許認可され、運転条件などの指示を受ける。放射性廃棄物の処分は、担当省庁である環境省スコットランド局とウェールズ局が、イングランドウェールズ農業水産業食糧省およびスコットランドの農業水産業省とともに認可を掌っている。放射性廃棄物の輸送に関しては、環境省スコットランド局またはウェールズ局によって発行される許認可によって初めて可能となる。」

 日本では、原子力科学技術庁の専管事項だったため、例えば放射性物質が海に放出されても環境省は口を出せないという。何という違いだろうか。しかし、英国の制度の良いところを取り入れることは可能なはずだ。民主党政権には頑張っていただきたい。このような制度にこそ、仕分けの適用をお願いしたいと思う。