ヨーロッパの将来エネルギー政策について

ヨーロッパの将来エネルギー政策について       June 02 [Thu], 2011, 10:53

 

 2050年までのヨーロッパの電力について、たいへん興味深いレポートがあるので紹介したい。このレポートは、近い将来のヨーロッパおよび周辺地域での電力について現実的な解を与えるもので、既にメーカーも入って、この方向に動き出しているという報道もされている。

 日本では、今まで頼りにしていた原発がだめになったので次は自然エネルギー、というような振れ幅の大きい政策が見られるので、大いに参考になるのではないかと感じた次第である。

 その報告書は、"Trans-Mediterranean Interconnection for Concentrating Solar Power"(「太陽熱発電のための地中海横断電力網」)というタイトルで、ドイツのInstitute of Technical Thermodynamics Systems Analysis and Technology Assessment (応用熱力学システム解析・技術評価研究所) のDr. Franz Triebがリーダーとなったプロジェクトの最終報告書(2005年)だ。原文は、http://www.trec-uk.org.uk/reports/TRANS-CSP_Full_Report_Final.pdfで見られる。短いSummaryも出ている。

 まず、図1の将来構想の概念図を見ると、タイトルの「太陽熱発電」に留まらない、広範な電力システムを考えていることが分かる。 

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図1 ヨーロッパ・北アフリカ送電網の概念図。

 このシステムのポイントはいくつかある。


 まず、自然エネルギー発電と火力発電のベストミックスを考えることである。原発は、出力一定でしか運転できないベース電源なので、それだけで外される。というのは、太陽・風力のような自然エネルギーでは、出力の変動が避けられないので、それを小回りのきく火力発電でカバーしようというわけだ。日本では、太陽・風力の変動を蓄電池で補うという発想になるが、このプロジェクトの発想は違う。

 次に、太陽光は、豊富なサハラ砂漠から太陽熱発電の電力を、海底ケーブルによって地中海を横断して運ぶ。日本ではあまり聞かないシステムだが、実は北海道と本州は電力海底ケーブルで結ばれている。

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図2 地中海横断海底ケーブルを含む送電網

 図2には、既に敷設されたものと計画中のものを合わせて、電力海底ケーブルが示されている。なかなか現実的なのである。太陽熱発電の技術・設備の開発についても、かなり進行中であると聞く。

 この電力を輸送するのは、800 kVの直流である。海底ケーブルのようなコンパクトな送電線の場合、直流の方がパフォーマンスが良いそうだ。交流だと、充電電流が流れて無駄が出てしまう。送電線や送電塔についても、環境アセスメントを含めて、具体的な検討が行われている。ただしもちろん、通常の陸上での送電は、交流で行う。

 実は、前々から疑問に思っていたフランスの将来の電力像についても、具体的な案があり、これには目を剥いた。 (続く)